Act of Living

人間愛とひと匙の狂気

名前のない死

人の死には名前がつくと思い込んで生きてきた。
脳卒中とか癌とか白血病とか

だけどこの国の多くの人の死には名前がつかない。
いや正確にはついているのかもしれないが、家族も友達も知らない。
興味がないのか知識がないのか、はたまた医者ですら分かってないのかは定かではない。

でも確かにこの2年間私の周りの何人かは原因不明で亡くなっていった。

「昨日まで元気で職場にも来ていたのに、急に具合悪くなって病院に運ばれて、そのまま亡くなってしまったよ」
なんて話を何度も聞いた。
しかも30~40代のまだまだ若く、子どももいる人たちばかり。



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赤いリボンは追悼の意


先日職場のドライバーBinnar(人々はベナとビナの中間くらいの音で彼を呼ぶ)が亡くなった。
まだ30代後半くらい、子どもを3人も遺して逝ってしまった。
つい前の週に挨拶を交わしたし、亡くなった週も職場に来ていたそうだ。
だから全然いなくなってしまった実感がわかない。
長身で物静かな彼は、今にもふらっと姿を現しそうだった。

彼が亡くなってしばらくして、何度か彼の番号から電話がかかってきた。
電話をとっても無言で反応がない。
ちゃんと繋がっているのに。
子どもが遊んで携帯をいじってかけてきているのか、それとも天国からの電話なのか···

職場である郡役所では、「彼はもう4ヶ月も給料を払われてなかったから、具合が本当に悪くなるまで病院に行けなかったのではないか」という話を聞いた。
経理部長を非難する声も聞いた。
誰も直接言わないけど。
汚職まみれのパブリックセクターでは、こんな酷い話がたくさん埋もれている。

彼は何度も私たちのプロジェクトを手伝ってくれた。
小中学校をまわる時、スポンサーにレターを持っていく時。
同僚からは、「彼にお金を渡してあげた方がいい」と言われたことがあった。
でも「彼は給料を貰っているし、これは郡役所の仕事なんだから、私がお金をあげるのはおかしい」なんて言って、渡さなかった。

後悔はないけど、モヤモヤはする。
病院に行けなくて困った時に頼ってもらいたかったなーとか、でもお金貸してって言われて素直に貸せたかしらとか、なんだかぐるぐる考えて切ない。

それでももし天国と電話が繋がるなら、ごめんねって言っちゃうかもしれない。
何に謝ってるのかもよく分からずに。

彼のお葬式は来週。
ガーナでは亡くなってから数ヶ月遺体を保管しておいて、そこからお葬式が普通だが、今回は突然死だったからか間があかない。
皆で名前のない死を悼み、そしてまた忘れていく。死は珍しいことではない。

せめてきちんとお見送りしよう。
やっぱりごめんねって言ってしまいそうだけど。


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